小さな声をヒントに。<TAKU GLASS>が仕掛けるガラスとの新しい出会い【前編】
2024.12.24. Tue.
弥彦村 TAKU GLASS(タクグラス)
新潟随一のパワースポット・彌彦神社の前にお店を構える<TAKU GLASS>。毎年来店するファンも多く、県内外からの来店客で連日賑わっています。前回は、夏に涼を届ける風鈴を紹介しましたが、今回は新年の訪れを彩る「かがみもち」と「干支」の置物をご紹介します。
お客さまの声から生まれた「かがみもち」
思わず撫でたくなる丸いフォルムに、ちょこんと乗った愛らしいみかん。本物のような真っ白なお餅から透き通ったガラスらしいお餅まで、さまざまな表情が楽しめる<TAKU GLASS>の「かがみもち」。越品ステージでも人気の商品です。
▲どの鏡餅を飾ろうか、迷うのも楽しいひとときです
商品開発のきっかけはお客さま。「『鏡餅を作ってみたら?』という声から商品化したところ、思いのほか好評で、年末年始の定番商品になりました」と教えてくれたのは、ガラス作家の野澤拓自さんです。全国のガラス産地で修業を積み、2013年に<TAKU GLASS>をオープン。2018年から弥彦村に工房を構えて、自作の窯で多種多様なガラスを生み出しています。
▲ガラス作家・野澤拓自さん
「プラスチック製の鏡餅を飾る家庭が多いと思いますが、『ゴミが出てしまうのが嫌で』という声をよく耳にします。使い捨てはもったいないからと数年飾る方もいるようですが、プラスチックは経年変化で黄ばんでしまう。そこで、ガラス。ゴミも出ないし、いつまでもきれいに飾ることができるので喜ばれています。一部屋に一つ飾るからと、毎年一個ずつ買い集めてくださるお客さまもいるんですよ」。
負けられない、時間との闘い
工房で「かがみもち」の製作工程を見学しました。
▲この日は、野澤さんを含め5人の職人が協力して製作にあたっていました
中央にあるのはガラスを溶かす窯です。中の温度は1,300~1,400度。メンテナンスの日を除いて、ほぼ一年中炎を絶やさないといいます。窯の中には「るつぼ」と呼ばれる壺が4つ入っており、壺ごとに溶かすガラスの色を変えることができます。
▲まずは、吹きざおを使って窯から溶けたガラスを取り出します
▲続いて、色や模様を加えるための加工を施します
「ここで色ガラスの粒をつけて色を変えることもあります。そして、溶けたガラスをもう一度巻き付けてガラスを成形。お餅をよく見ると、2層になっているのが分かると思います」。
▲この透明なガラスが…
▲ひび割れ模様になったり、気泡が入ったりと変幻自在!
▲模様がついたら、さまざまな道具を使って成形します
これで土台となるお餅の完成です。間髪入れず、すぐに次の工程へ進みます。
▲吹きざおを付け替えて、お餅の上に乗せるパーツを作ります
1人がお餅を成形している間に、別の職人が少量のガラスを巻き付けた吹きざおをセッティング。お餅のついた吹きざおが野澤さんに手渡されるのと同時に吹きざおを付け替えます。この時には、先ほどお餅を作っていた職人は次のお餅づくりに取り掛かっていました。
▲同時進行で作られていたみかん用のガラスを乗せます
▲みかんの形を整えたら葉っぱ用のガラスを乗せ、はさみで葉脈を描いていきます
▲ちなみに、みかんや葉っぱは粒状の色ガラスで色付けをしていました
▲ガラスの温度を調整するための「再加熱炉(グローリーホール)」
実は、工程ごとに再加熱炉に入れて加工しやすい温度に温めながら作業しています。
「炉に入れる深さや時間は、絶妙な調整が必要です。加工する部分が温まれば良いのですが、温度差ができると割れてしまう。常に全体のバランスに気を配りながら作業しています。重力でガラスがだれてしまわないよう、吹きざおを回し続ける必要もあって…見た目以上に重労働かもしれません」。
▲最後に吹きざおから切り離し、断面をバーナーで熱して平らにします
ガラスは急激に冷ますと割れやすいため、完成したら「徐冷炉(じょれいろ)」に入れ、一晩かけて温度を下げていきます。
▲徐冷炉に並べられた「かがみもち」
「かがみもち」は、無駄のない動線設計と職人の見事なコンビネーションによって生み出されていました。
「小さいものは冷めるのが早いから、素早く作らないといけないんです。大きいと楽かと思えば、重量が増すのでそうでもなく…。窯の中に残っているガラスの量が違うと、温度も変わるし吹きざおの使い方も変わる。だから、同じ商品でも作る時間帯によって作業スピードを変えます。本当に奥が深いですよね」。
ガラスもアイデアも、熱いうちに
大きさも色もバリエーション豊かな「かがみもち」ですが、特に目を引くのが本物のお米が入るタイプ。ガラスの透明感を活かした商品です。
▲お米が入る「かがみもち」
「最初は大と小だけだったのが『中間の大きさが欲しい』という声を聞いて、じゃあ来年作りますねって(笑)。お米を入れるアイデアもお客さまがくれたものです。店舗スタッフが常にアンテナを張って、お客さまの声を拾ってくれるのでとても助かっています」。
▲みかんが蓋になっています
「良いと感じたらすぐ試作に取り掛かる」が野澤さんのモットー。ガラスもアイデアも熱いうちに形にすること。上手くいかなくてもいいから、とにかく「即行動」が肝心なのだと教えてくれました。後編では、干支ものに対するこだわりや、ものづくりへの姿勢を掘り下げていきます。
TAKU GLASS
〒959-0323 新潟県西蒲原郡弥彦村弥彦3022-4
電話:0256-78-7741
取材・文章:鵜野梨奈(ザツダン株式会社)
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