ガラスで日常に彩りを。<アトリエ三春>のささやかな願い【前編】
2024.06.17. Mon.
新潟市 アトリエ三春
毎年、夏本番に向けて開催している<アトリエ三春>のポップアップストア。器や箸置き、アクセサリーなど、多彩なガラス製品をご紹介していますが、なかでも人気なのが涼やかな音色を奏でる風鈴たちです。今回は、その制作現場を訪ねました。
ガラス製品は全てが一点もの
本体の形や色、中央にぶら下がる舌(ぜつ)や短冊、パーツをつなぐ紐。アトリエ三春の風鈴は、一つとして同じ組み合わせがありません。貴重な小千谷縮を用いた凛とした風鈴から、東欧のヴィンテージファブリックを合わせたポップな風鈴まで、雰囲気も千差万別。伸びやかな高い音や柔らかな少し低い音、音色も個性豊かで魅力的です。
「選ぶ楽しさを味わっていただきたくて、舌や短冊は一から手作りしています。同じデザインのパーツでも、色や柄が微妙に異なる。できあがった風鈴だけでなくパーツの一つひとつも一点ものなんですよ」と、教えてくれたのはオーナーの照井清子さん。風鈴をはじめ、器や箸置き、アクセサリーなど、アトリエ三春の多彩なガラス製品を一人で生み出しているガラス作家です。
▲清子さんが手がけたガラス製品の数々
一つひとつ、手作業で
全国有数の石油産出地として知られ、かつてはガラス工業が盛んだった秋葉区新津地域。アトリエ三春の工房は、自然豊かな秋葉山の麓にあります。
1987年に新発田市で工房を開き、2018年に移転。この地に唯一残った吹きガラス工房・秋葉硝子とスペースをシェアしながら、ガラス製品の製造・販売・制作体験の提供を通してガラスの魅力を発信しています。以前は吹きガラス製造にも携わっていた清子さん。現在は電気釜でガラスを熱して加工するフュージング技法に特化しているため、風鈴の本体は秋葉硝子に製造を依頼しています。
「見た目はもちろんですが、風鈴の肝はやっぱり音。だから、うちは鉛が含まれたクリスタルガラスを使用してもらっています。この澄んだ音色は金属音なんですよね」と、清子さん。風鈴の組み立て作業を見せてもらいました。
▲まずは本体、舌、短冊、紐の組み合わせを決めます。短冊は強度を高めるため、布に特殊なフィルムを裏打ちしてありますが、最適な製法に辿り着くまでには5年ほどかかったそう
▲舌に使うパーツの一部。色も形もさまざまです
▲各パーツを紐でつなぎ合わせます。この時、結び目が左右どちらかに偏らないよう特別な縛り方で結びます
▲本体の形に合わせて紐の長さを調節。見た目や音に関わる重要な工程です
▲全てをつなぎ合わせたら完成です。舌が低すぎると音が鳴らず、高すぎると不恰好。長年の経験と勘を頼りに、見た目も音も美しくなる位置を見極めながら一つひとつ組み立てていきます
惜しみない手間と愛を込めて
舌に使うパーツは、全て清子さんのお手製。毎回、短冊に使う布の色や柄に合わせて新しく作っているそうですが、実は見た目以上に時間と手間がかかっています。
▲ベースとなる透明な板ガラス。厚さはさまざまで、作りたい製品に合わせて使い分けます
▲まずはあらかじめ使いやすい大きさに切り分けたガラスの表面に、ガラスカッターで傷をつけます
▲続いて、プライヤーと呼ばれる歯の中央に出っ張りがある専用の工具で挟み、切り込み線に沿って切断。求める大きさになるまでこの工程を繰り返して細かくカットしていきます
▲先述の透明なガラスと同様の手順で色ガラスをカットし、透明な板ガラスに重ねて焼成したものが画像左のガラス。さらに使いたい形にカットして、再び釜で熱することで柄のあるパーツ(画像右)ができあがります
▲温度変化の速度が異なる2つの電気釜
ガラスは急な温度変化に弱いため、ゆっくりと温度を上げ、狙った温度に達したら再度ゆっくりと常温まで戻していきます。1回の焼成にかかる時間は丸1日。組み合わせるガラスや作りたい形状ごとに最適な焼成温度が変わる、とても繊細な作業です。「求める加減が出せるまで何度も試作を繰り返して、ようやく一つの製品を作り上げるためのレシピが完成するんです」と、清子さん。
短冊にもこだわりがあります。年に一度、織元を回って集めたり、お客様から譲っていただいた古い着物や端切れ生地をアップサイクル。なかには、もう製造されていない高価で貴重な生地もあり、これもまたアトリエ三春の風鈴をより個性的なものにしています。
▲初めてお客様から譲り受けた着物
短冊に布を使い始めたのには、二つの原体験が根底にあると話す清子さん。「一つは、祖母から受け継いだ着物。何度も縫いつなげて着ていたようで、どうしても捨てられなかったんです。もう一つが、お母様があつらえた着物を譲ってくださった方との出会い。『私はもう着られないけれど、風鈴の短冊になるなら親の供養になると思って』なんておっしゃるんです。どちらも美しくてもったいないと思いました。それで、思い入れのある着物や生地を譲っていただいて、想いを大切にしながら短冊に仕立てようと決めたんです」。
美しい風鈴は、たくさんの手間と時間、誰かを思いやるあたたかな気持ちが組み合わさってできていました。後編では、清子さんとガラス、アトリエ三春とNIIGATA越品との出会いを紐解きます。
アトリエ三春
〒956-0833 新潟県新潟市秋葉区草水町2丁目12-32
電話:090-2675-8507
取材・文章:鵜野梨奈(ザツダン株式会社)
その他のおすすめイベント