針と糸と、遊び心と。<塚野刺繍>が描き出す、刺繍の未来【後編】
2023.10.04. Wed.
五泉市 塚野刺繍
フェルト生地に糸で物語を綴った一見開きだけの絵本。本物と見間違えそうなほど精巧な観葉植物。刺繍のイメージを覆す表現力と発想の源は、まだ見ぬ技術への探究心と楽しいことが大好きな遊び心でした。
負けん気の強さと探究心で刺繍の先へ
塚野刺繍は、現・代表取締役を務める塚野毅之さんの父が1960年に創業しました。主に請け負っていたのが、アパレルメーカーの製品に刺繍を施す二次加工。「刺繍と呼ばれる加工は何でも対応していました。使いたい紐がなければ紐を作るところから始めたり、自社にある機械でできなければ、鉄工所に部品を作りに行ったり。何でもやり切ろうとするんです」と笑う友恵さん。「よその商品を持ってきてこんな風に作れるかって聞かれたら、できないって言えないじゃない。誰かがやってるわけだから、僕もできるまでやるんです」と毅之さん。負けん気の強さと職人のこだわりが、機械を扱う技術や刺繍の表現力を鍛えてくれたと振り返ります。
刺繍機メーカーから試作機の試運転を依頼されたこともある毅之さん。「僕は、メーカーが想定していない使い方をするらしいです。担当者から『世界一使いこなしているけれど、使い方がおかしい』と言われました(笑)」。同じ機械を扱う同業者と差別化を図ろうとした結果、刺繍機だけで縫製まで手掛けるようになった同社。扱う機械を1種類に絞り、加工技術の種類は狭まったはずですが、ものづくりの幅はどんどん広がっています。
▲機械メーカーが繋いでくれたご縁で、フランス人アーティストの美術館展示を手伝った際の刺繍作品。一番長い文章は完成までに丸2日かかったそうです
「楽しい」を原動力に高みを目指す
「刺繍屋じゃないとできないことを考えるのが好きなんです。自社ブランドの商品づくりは実験の場」と話す友恵さん。楽しさを追求し、遊びながら刺繍の枠をはみ出すものづくりを続けたおかげで、本業である刺繍加工の仕事でも提案の幅が広がり、説得力も増したと言います。「例えば、Aの糸で縫って欲しいと依頼された時に、Bの糸でも縫ってみる。それでBの方が良いと思ったら、試作品を2パターン作って持っていきます。頼まれたままこなすんじゃなくて、刺繍屋ならではの視点で些細な気づきを逃さずに提案につなげる。そんな姿勢を大切にしてきたから、仕事を続けてこれたのかなと思います」。
▲刺繍機で縫製まで手掛けているゴルフクラブカバー
NIIGATA越品の一員であることも探究心の源になっているそう。「選んでもらったうれしさがある反面、NIIGATA越品のクオリティを信頼して買いに来てくださるお客様のために、良いものを作り続ける努力をしなきゃとプレッシャーも感じていますよ。定番のないうちの商品を、長年扱ってくださるバイヤーさんの期待にも応え続けていきたい」と友恵さん。
フレッシュな戦力と、次のステージへ
2023年4月、塚野刺繍に強力な助っ人が加わりました。地元を離れ、ブライダル業界で働いていた娘の塚野紗羅さんがデザイナーとして帰ってきたのです。「刺繍の観葉植物『LOPIN(ロピン)』のロゴデザイン、パッケージデザイン、店舗レイアウト、SNS発信を担当しています。LOPINの名付け親でもあるんですよ」と友恵さん。紗羅さんは帰ってきて早々に地元の仲間と手を組み、かき氷屋、鍼灸整体サロン、刺繍屋の異業種コラボ企画「LIFE IS FUN 人生は楽しい!」を開催。2日間に渡って行われた初の自主企画イベントは、1日に100名近くのお客様が来場し、大盛況のうちに幕を閉じました。
▲LOPINの今夏の新作はひまわり
アソビボタンを皮切りに、絵本や手紙、観葉植物と刺繍の可能性を広げて10年。丁寧に美しく仕上げる技術力。負けん気の強さと職人のこだわり。塚野刺繍ならではの視点で添えるプラスαの提案。そこに加わった、若いパワーと自由な発想。
「まだ見ぬ面白さに出会わせてくれる作品を作り続けたい」と話す毅之さんたちが次に描き出す未来には、どんなワクワクが待っているのでしょうか。
<取材後記>
楽しむ気持ちを武器に、手元にある材料を組み合わせて新しい何かを生み出す塚野刺繍。自分が子どもの頃、新聞紙やダンボールなどで遊び道具を作っていたワクワクを思い出しました。相手に楽しんでほしいなら、まず自分が楽しむことから。勝手ながらそんな教訓を得た今回の取材。「作り手同士でコラボレーションするのも面白そう!」と、NIIGATA越品のヒントとなるかもしれないアイデアも出てきました。これまでに発掘してきたコト・モノ・ヒトが交差し融合することで、さらなる「想像をこえる新潟」の発見へ。2025年には10周年を迎えるNIIGATA越品のこれからが、より楽しみになりました。
塚野刺繍株式会社
〒959-1836 新潟県五泉市南本町2丁目1番61号
電話:0250-47-4173
取材・文章:鵜野梨奈(ザツダン株式会社)
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