灯すのは、大切な人を想う気持ち。<小池ろうそく店>が現代につなぐ花ろうそく【前編】
2023.07.24. Mon.
新潟市 小池ろうそく店
もうすぐお盆。実家に帰省したり、お墓参りに行かれたりする方も多いのではないでしょうか。仏壇やお墓に手を合わせるときに欠かせないのが、ろうそく。新潟市江南区にある「小池ろうそく店」では、和ろうそくに花の絵を施した「花ろうそく」が作られています。
花の咲かない冬、仏花のかわりに
「花ろうそくは、大切な人を想う気持ちから生まれたんです」と教えてくれたのは、小池ろうそく店四代目の小池孝男さん。花ろうそくの歴史は古く、江戸時代中期の資料にはその存在が確認できるそうです。見た目の華やかさから美術品としてのルーツを想像しますが、実は一般の民衆の生活から生まれた実用の品。その昔、雪国新潟では冬になると、花を育てることができませんでした。そこで花の絵を描いたろうそくを使うことで、仏壇に供える花のかわりとしたそうです。
▲春夏秋冬の花々が描かれた花ろうそく
「火をつけるのはもったいないと良く言っていただくのですが、昔の人はろうそくとともに消えていく花は大切な人のもとへ届くと考えていました。大切な人を想う気持ちから生まれたのが、花ろうそくという文化なんです」と孝男さんは言います。また、一年中好きな花を選べるのも、花ろうそくの魅力のひとつ。「花見酒が好きだったおじいちゃんには桜のろうそくを、雪椿が咲くのを心待ちにしていたおばあちゃんには雪椿のろうそくを。その人が好きだった花を、季節を問わずにお供えすることができます」。
かつて暮らしの明かりとして欠かせなかったろうそくも、電気がある現代ではほとんど使われることがなくなりました。仏壇がある家庭も減っています。「年に一度のお盆のときだけだから、特別なろうそくにしたい」と、花ろうそくを選ぶお客さんも少なくないそうです。
ひとつひとつ、手描きのぬくもり
誕生日やクリスマスのケーキに立てたりして使用するキャンドルと、和ろうそく。それぞれに、また違った魅力があります。和ろうそくは上にいくほど太くなるのが特徴。火をつける芯にも大きな違いがあり、筒状にした和紙にい草が巻きつけてあります。この素材と構造によって、和ろうそくは独特な燃え方をします。まず火をつけると上からろうが溶けていきますが、太い部分が受け皿のようになり、溜まったろうを芯が吸い取ることで、安定した燃焼に繋がっていきます。また筒状になった芯の下からは、ストローのように空気が上がり、炎へと酸素を供給します。そのため和ろうそくの炎は、生き物のようにゆらめきながら燃えていくのです。この揺らぎのある炎を見つめることで、癒しの効果もあると言われています。
▲「好きな花を選んでほしいから、ここまで種類が増えました。」と話す小池孝男さん
現在、小池ろうそく店には20代から70代まで、11人の絵師が所属。その一人が、小池深香さんです。「絵師になったのは2019年。もともと絵を描くのが好きだったのもあり、先輩の絵師さんが作ったデザインを見ながら、教えてもらいながら、練習してきました」。絵師は兼業の方がほとんどで、それぞれの自宅で作業をしているそうです。
▲1本ずつ心を込めて筆を入れていく小池深香さん
「ろうそくに絵を描くのは、紙に描くのと感覚が違います。上に行くほど太くなるので、絵柄の大きさを微調整してバランスを取っています」。花ろうそくは対で飾る2本セットが基本。左右のろうそくが同じ絵に見えるように、細部まで神経を張り巡らせて描くそうです。しかしそれと同時に、手描き特有のぬくもりを感じさせてくれるのが、花ろうそくの魅力ではないでしょうか。
▲筆などの道具は、それぞれの絵師が使いやすいものを選んで使っているそうです
実はろうそくが好きな新潟人
孝男さんに言わせると、「新潟の人はろうそく好き」なのだそうです。「魚沼などの豪雪地帯に行くと、ろうそくは巨大化してきます。長さは1mを超え、重さは40kg以上になるものもある。地域のお祭りに、企業名が入ったろうそくを奉納する習慣も見られます」。
▲かなり大きなろうそくですが、これの倍以上のサイズのものが使われる地域もあるとのこと
ろうそく売場の広さからも、その傾向がわかるそうです。「ホームセンターや100円ショップに行くと、レジのすぐ横にろうそく売り場があるのをよく見かけます。県外だとあまり見慣れない光景だそうで、新潟の人はろうそくをよく使うんだということに気づきます」。
美人画や風景画など様々な形で全国に広がっている絵ろうそく。その中でも、大切な人への想いを込めた雪国新潟の文化である「花ろうそく」は特別なものだと話してくれた孝男さんと深香さん親子。後編では、深香さんが開発した「花丸ろうそく」の誕生やNIIGATA越品との出会いなどについてうかがっていきます。
小池ろうそく店
〒950-0135 新潟県新潟市江南区所島2-2-76
電話:0120-87-6009(ハナローソク)
取材・文章:横田孝優(ザツダン株式会社)
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