日常から消えた道具を、ふたたび暮らしの中へ。<越後亀紺屋>の新潟手ぬぐい【後編】
2019.10.23. Wed.
阿賀野市 越後亀紺屋 藤岡染工場
「手ぬぐいをもっと使ってもらいたい」。270年の伝統を受け継ぎ、今もすべて手作業で手ぬぐいを染色している<越後亀紺屋 藤岡染工場>の藤岡利明専務は、道具としての手ぬぐいの魅力を世の中に広めていきたいと語ります。
270年の伝統を、現代へ
<越後亀紺屋 藤岡染工場>がある阿賀野市旧水原地区は、1746年(延享3年)に設置された代官所を中心に栄えてきたエリア。この地で、1748年(寛延元年)に創業しました。最初は糸を染める「紺屋」として始まり、3代目の頃から法被(はっぴ)や暖簾(のれん)などの製造へと拡大。「法被といえば、今はお祭りや大売り出しのときに着るイメージですが、昔は正装でした。ジャケットのように誰かをお出迎えする時に使う服装だったのです。多い時にはこの一帯で10軒以上の紺屋があったのですが、今ではうちだけになりました」と、藤岡さんは当時の様子について教えてくれました。
▲商店街に掲げられたのぼり
明治、そして大正へと時代が移り変わると、庶民のファッションも和服から洋服へと変化し、法被を着る機会が減少します。その頃に作り始めたのが、手ぬぐいでした。「当時は色々なお店からの依頼が大半を占めていました。お店がお客さんにご挨拶として渡す、つまり販促品として手ぬぐいが使われていたわけです」。ところがさらに時代が進んでタオルが普及すると、暮らしの中で手ぬぐいが使われる機会が少なくなり、企業やお店からの依頼も減っていきました。
「代々職人が手で染めてきたのが藤岡染工場のこだわり。歴史もあるし、技術もある。受け継がれてきた伝統を伝えていきたかった」という藤岡さんの思いから約15年前に立ち上げられたのが<越後亀紺屋>というブランド。「きっかけは電車の中吊り広告でした。某ビールメーカーさんが、手ぬぐいをキャンペーンの景品としてプレゼントしていたんです。“手ぬぐいが来る”と直感で思いました」。
▲270年の歴史を支えてきた道具たち
依頼が途切れない人気商品に
それまで企業やお店向けの商品としていた手ぬぐいを、一般向けにリニューアル。今までの手ぬぐいにはなかったポップなデザインが話題を呼びました。2007年からは長岡造形大学とのコラボレーションを開始し、デザインのバリエーションは増え続けています。
空港や道の駅など、新潟手ぬぐいは今やさまざまなお店で目にする人気商品となりました。そして、企業からの依頼も増えているそうです。「周年記念品やイベントのおみやげなどに使っていただくケースが多いですね。以前はお祭りや年末年始の時期に限られていたのに、今は一年中手ぬぐいを染めている状況ですね」と、藤岡さんは笑みを見せます。
▲「デザイン提案から製造までトータルでやっている染物屋は、全国的にも珍しいんです」と藤岡さん
現在、職人は6人。後継者不足に悩む職人が多いと聞きますが、藤岡染工場では20代と30代の若手も活躍しています。「販売するお店や雑誌で紹介される機会が増えたことで、若者がうちで働きたいと言ってくれるようになりました。また、自分の作った商品が家族や友人の目に触れて、褒めてもらい、それによって仕事へのやる気も高まっているようです」と、いいサイクルにつながっています。
▲伝統技術を受け継ぎ、若い職人たちが活躍しています
日常の道具をめざして
2007年4月の催事で<越後亀紺屋 藤岡染工場>は初めて新潟伊勢丹に出店しました。藤岡さんは「まるでお祭りでしたね」と、その時の大盛況を振り返ります。そして現在はNIIGATA越品の定番商品のひとつとして、2階の越品ステージで販売されています。
越品プロジェクト担当の志田愛美は、「当初はおみやげやギフトとして買っていかれる方が多かったのですが、最近は自分用として求める方も多いですね」と語ります。その理由は、リピートのお客さまが増えているため。最初はプレゼントとして新潟手ぬぐいを手にし、使い心地が気に入って「もう一枚」となるようです。
▲「海外のお友達へのおみやげとして、毎年買ってくださるお客さまもいます」と、越品担当の志田
藤岡さんたちが次にめざすのは何なのでしょうか。「私たちは手ぬぐいを日常の道具としてどんどん使ってもらいたいと思っています。そしてもうひとつが、“新潟のおみやげといえばコレ!”と言われるものにしたい。ペナントやちょうちんのようなイメージです(笑)。そのために季節感を出した柄などにもチャレンジしていくつもりです」。
▲工場に併設したお店には、さまざまな柄の手ぬぐいが並びます
手ぬぐいを現代的に進化させ、その価値を伝えることに成功した<越後亀紺屋 藤岡染工場>。その推進力になっているのは、伝統を大切にしながらも、ノスタルジーに頼らない前向きな姿勢でした。
<取材後記>
新潟のおみやげ屋さんでは必ず目にすると言ってもいいほど人気の「新潟手ぬぐい」。その一方で、自分の暮らしを見渡すと、手ぬぐいを使う場面がほとんどなかったことに気づきました。「日常の道具としてどんどん使ってほしい」という藤岡さんの言葉を聞いて芽生えた、タオルやふきんのかわりに手ぬぐいを使ってみようかなという気持ち。作り手の声を聞き、思いに触れることで、道具に対する考え方に変化が起こるのも、この取材のおもしろいところです。毎日使える道具は、毎日自分を思い出してもらえる贈り物になる。まずは二枚の新潟手ぬぐいを、県外の親戚への手みやげに買ってみました。
越後亀紺屋 藤岡染工場
〒959-2021 新潟県阿賀野市中央町2-11-6
電話:0250-62-2175
取材・文章・撮影:横田孝優(ザツダン)
※掲載商品は取材時のものとなり、変更となる場合がございます。予めご了承ください。
その他のおすすめイベント