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一枚の布だからごまかしが利かない。生地の質を追求する〈絽紗(ろしゃ)〉のストール【前編】

2020.5.18. Mon.

五泉市 横正機業場

優しい肌ざわり、鮮やかな色彩、素材の美しさ。着物に使われる絹織物から仕立てられた<絽紗(ろしゃ)>のストールは、和装文化の粋を日常のファッションに取り入れることができるアイテムです。ブランドを展開するのは、五泉市の「横正機業場」。着物を染める前の白生地(しろきじ)を製造し、日本の美を技術で支えてきた老舗メーカーです。

着物に使われてきた絹織物を、首元に

京友禅や加賀友禅、江戸小紋など、着物の産地といえば「染」の伝統を持つ地域がまず思い浮かぶのではないでしょうか。織物の染め方には二種類あり、糸を染めてから織る「先染め」と、白い布を作ってから染める「後染め」に分けられます。和装文化において格式の高いフォーマルな場にふさわしいとされるのが、後染めの着物。現在ニットで有名な五泉市はそれ以前から、後染めが施される前の「白生地」の産地として栄えてきた歴史があります。

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▲ 染める前の白生地

<絽紗>のストールは、この上質な白生地の技術で作られています。夏の着物に使われてきた「絽(ろ)」や「紗(しゃ)」という絹織物を横正機業場が独自で研究開発し、1/4以下に軽量化。軽くてふんわりとした生地に仕立てました。絹は人の肌に近いタンパク質でできているため、優しい触り心地。吸湿性が高いのも特徴で、夏はサラッと涼しく、冬は温もりを逃しません。季節を選ばず楽しむことができます。

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▲ さまざまな技法で染められた色とりどりのストール

美しい色や柄は、全国の染職人たちの手によるもの。繊細な色を表現するために、染の技法ごとにふさわしい生地を選び、時には新しく開発もしています。ここまでできるのも、織物工場によるファクトリーブランドだからこそ。一枚のストールの中に、着物の美しさと心地よさが込められているのです。

手間ひまかけた、糸の下準備

「白生地の製造は、糸の準備からです」と語るのは、専務の横野弘征さん。国産の糸はごくわずかしかないため、横正機業場では高品質なブラジルの糸を主に使っています。入荷した時は束の状態のため、機械で巻き取る「糸繰り」が最初の工程です。

▲ 高速で回転する糸繰り機

次は「糊付け」の工程。生糸はとても細いため、何本かを束ねて撚りをかける(撚糸)ことで丈夫にしますが、その代わりに光沢が失われてしまいます。絹特有の輝きを残しながら強度を持たせるために、糊でコーティングをするのです。

▲ 糊が付いたローラーが回転。糸が押し当てられ、糊付けされます

▲ 2本で束ねられ、木枠に巻き取られていく糸(中には1本のまま使われる糸もあります)

織物は経糸(たていと)と緯糸(よこいと)によって作られますが、次は経糸を整える「整経」という工程。最終的な生地の長さと幅に合わせて、糸をドラムに巻いていく作業です。糸の張り(テンション)を均一にすることも重要。経糸は生地のベースになるため、特に慎重に進めていきます。

▲ 大量の木枠から取り出された糸が…

▲ この穴を通って…

▲ ドラムに束ねられていきます

機械で織り上げられていく、経糸と緯糸

ドラムに巻かれた経糸(たていと)に、等間隔で緯糸(よこいと)を通す隙間を空けていく工程。「筬通し(おさとおし)」と言います。櫛のように隙間が空いた「筬」という道具を使い、同じ本数ずつ糸を通していく地道な作業です。

▲ 年季の入った道具を使い、黙々と進められる筬通し

▲ 隙間の一つひとつに糸の束が通されていきます

一方、緯糸(よこいと)には、五泉ならではの技術が施されます。糸を濡らす「濡れ緯(ぬれよこ)」。糸を撚らずに束ねるための技法ですが、絹織物の産地でこの方法を使っている地域は決して多くありません。五泉はその文字からも分かるように、古くから水に恵まれた土地。五泉の水は鉄分が少なく、長時間浸しても糸が茶色く変色しないため、濡れ緯の技術が発展してきました。織物を作る際、水分は経糸(たていと)に移って繊維をわずかに伸ばし、また緯糸同士の吸着を生みます。その効果によって、密度の高い生地ができあがるのです。

▲ 濡れ緯の加工をする機械

▲ 鉄分が少ない五泉の水を、糸に染み込ませます(この段階では糸の色はピンクですが、精練によって最終的に真っ白になります)

ここまでが糸の準備。ようやく「織り」の工程です。自動織機によって、目にも留まらぬスピードで織られていきます。

▲ 手前から機械の方へと伸びる経糸(たていと)

▲ 高速で動く機械によって、緯糸(よこいと)が織り込まれていきます

できあがった織物は、「検反」という検査工程を経て外部の精練工場へ。不純物が除去され、絹ならではの手触りとつやが生まれます。

▲ 検反の作業。生地に水を吹きかけ、表面のごみを取っています

京都の丹後、滋賀の長浜と並ぶ「日本三大白生地産地」として数えられてきた五泉市。しかし、絹織物の出荷額は40年前の最盛期の3%まで減少しています。これまでは染の産地の影に隠れてきたが、これからは五泉として発信をしていかなければ生き残れない。産地としてのアイデンティティが、やがて「絽紗」を誕生させることになるのです。

株式会社 横正機業場

〒959-1824 新潟県五泉市吉沢1-2-38

電話:0250-42-2025

 

取材・文章:横田孝優(ザツダン)

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