三条市 フタバ

7月31日(水)に発売した新商品「トマトだし」が好評の<ON THE UMAMI>。長年、プロ向けのだしを作り続けてきた三条の企業フタバが、2017年に満を持して立ち上げた家庭向けシリーズです。うまみを手軽に楽しめるだしパックや食品を続々と登場させ、ブランドの世界観を広げています。その土台にあるのは、フタバが長年大切にしてきた「うまみの独自研究」でした。

知る人ぞ知る、だし専門企業

フタバの創業は1953年。当初は、鰹節や乾物などを飲食店に販売していました。料理人が毎日使う「だし」に早い段階から目をつけ、独自研究をスタート。「だしメーカーの多い地域が、静岡県や鹿児島県。どちらも海が近く、三条からまともに勝負したのでは敵いません。そこでフタバが力を注いだのが研究でした」と、代表取締役の江口晃さん(冒頭の写真右)は説明します。

削り節やだしパックの原料となる、鰹節

パックから抽出するお茶が流行したことにヒントを得て、1962年にだしパックを開発。外食業界に売り込みますが、当初はなかなか受け入れてもらえませんでした。手軽なだしパックは、鰹節からじっくりとだしを引くのが当たり前のプロの現場では邪道と見なされてしまったようです。それでもあきらめず地道な営業活動を続けるうちにその利便性が認められ、フタバのだしパックは今や全国の飲食店で使われるようになっています。

ここまでの研究設備を持つ食品メーカーはめずらしいそうです

1987年には研究開発室が開設され、専門の研究機関と同レベルの設備投資が進められてきました。「だし」というと和食のイメージが強いですが、ラーメンやパスタ、煮込み料理などさまざまなジャンルの料理で味を決める重要な役割を担っています。フタバでは料理人からのリクエストに応えながら、鶏・貝・えびなど多彩なだしを開発し、商品ラインナップを拡大させてきました。

「外食業界には人手不足という課題もあります。手間がかからず時短にもなるだしパックを求める声は高まっています」と、江口さん。求める味が手軽に得られるフタバのだしパックは、飲食店の救世主になっているようです。

長年の研究が、フタバの財産

研究開発室を見学しました。アミノ酸や有機酸といった「うまみ」の成分分析や、味覚センサーという機器による人間の舌に近い感覚での味の数値化など、おいしさを科学的に分析する取り組みが日常的に進められています。

たゆまぬ研究によって、安定したおいしさが実現されています

「味覚だけではどうしても曖昧になりますが、科学的な分析によって数値化することで味の均質化が実現できます」と、経営企画室の土田康晴さん(冒頭の写真左)は語ります。最初の1年間で約40種類のアイテムを登場させた<ON THE UMAMI>。研究開発室とこれまでの研究データが、スピーディーな商品開発を可能にしたそうです。

「試作と分析を自社で完結できるため、トライアンドエラーが速いのが当社の強み。創業当時から設備投資を続けてきてくれたことに感謝ですね」と、江口さんは声を弾ませました。

三条市西本成寺にある<ON THE UMAMI>の本店
「地元の方を中心に、足を運んでくださるお客さまが増えてきました」

新たな挑戦、県産トマトのだし

7月31日(水)に、<ON THE UMAMI>の新商品がNIIGATA 越品からデビューしました。それは「トマトのだし」。新潟県産のトマトを使用した、新潟の野菜だしシリーズ第1弾です。もともと新潟素材を軸にした展開を考えていたフタバ。さらにNIIGATA 越品バイヤーの長谷川雅史の「だしにも旬があったらおもしろいですよね」という一言がきっかけになり、開発が本格スタートしました。

だしの素材は、強いうまみを持つトマト「ソプラノ」

だしの素材には、野菜ソムリエ上級プロの清野朱美さんからのアドバイスで、新潟市東区のふぁーむ佐助が栽培する「ソプラノ」という品種をチョイス。「いくつか試食しましたが、うまみがダントツで強かったのがソプラノ。だしがもう入っているんじゃないかと思いました(笑)」と、江口さんと土田さんはそのポテンシャルに驚いたそうです。

ソプラノの成分を分析すると、うまみ成分であるアミノ酸は一般的なトマトの3倍以上。だしになることでより凝縮された味を堪能することができます。「スープやオムレツによく合います。季節の野菜と煮込むと、相乗効果でより一層うまみが深くなります。変わった使い方だと、だしパックの中身をそのまま豆腐にかけるのもおすすめ。トマトの酸味が豆腐と意外にマッチします。だしの赤い色が映えて、見た目もいいんです」と、土田さんが教えてくれました。

新商品の「UMAMIだし トマト」

フタバがこれから目指すのは、新潟の素材とだしの技術を組み合わせて、新しいおいしさを生み出すこと。トマトのだしはその序章に過ぎません。「今まで扱ってこなかった食材の研究は、新しい発見に繋がり、会社も成長することができます。もっと色々なおいしさを発見したいという意欲が高まっていますね」と、力強く語る江口さん。「地元との繋がりを深めて、みなさんから応援される企業になりたい」と、地域への発信にも意欲的です。

見慣れた新潟の食材たちも、まだまだ可能性を秘めているのかもしれません。フタバが新しいおいしさを届けてくれる日が待ち遠しく感じられました。

<取材後記>
骨太なコンセプトや洗練されたパッケージデザインが素晴らしく、ハンドドリップだしやUMAMIソフトといった変わり種のアイデアも楽しい。<ON THE UMAMI>は、「だしをもっと楽しんでもらいたい」という願いが細胞のひとつひとつに行き渡っているブランドだと感じました。そして、それと同等か、それ以上に重要なのが、「安定したおいしさ」が核となっていることではないでしょうか。業務用から家庭用へ、という挑戦が成功したのは、独自のノウハウとデータという強力な地盤があったからこそ。60年以上の研究が見事に花開いたのが<ON THE UMAMI>でした。だし作りに不利な土地だったから生まれた、「だしを科学する」という独自性。アイデアと工夫でオリジナルの価値をつくる姿勢に、ものづくりの町・三条の魂も感じるのでした。

株式会社フタバ
〒959-1136 新潟県三条市川通中町477
電話:0256-45-7272


取材・文章・撮影:横田孝優(ザツダン)

※掲載商品は取材時のものとなり、変更となる場合がございます。予めご了承ください。