弥彦村 <TAKU GLASS(タクグラス)>

ガラス作家・野澤拓自さんの作品を販売する彌彦神社前のお店<TAKU GLASS>。これから本番を迎える夏にぴったりの涼しげな風鈴やガラス雑貨が、6月5日(水)~18日(火)の期間限定で新潟伊勢丹のNIIGATA 越品ステージに勢揃いします。見た目に美しいだけでなく、どこか親しみやすさを感じさせるガラス作品を生み出す野澤さん。その工房を訪ねました。

一風変わったガラス遍歴

「最初からガラスがやりたかったわけではないんですよ」と話す野澤さんは、新潟市秋葉区の出身。定時制高校に通っていた10代後半、昼間は照明ガラスの工場で働いていました。流れ作業の中で大量生産の商品を作る仕事でしたが、若き野澤さんは手作りガラスに興味を持ち始めます。始業前や昼休みの時間を使って、見よう見まねで最初に作ったのは花瓶でした。「祖母にプレゼントしたら、すごく喜んでもらえました。その時の嬉しさが、今お客さんに喜んでもらいたいという気持ちにつながっていますね」と、野澤さんは当時を振り返ります。

スイカの風鈴は、<TAKU GLASS>の人気アイテムのひとつ

ガラス以外の仕事への興味から転職をするも、21歳の時に「やっぱりガラスがやりたい」という思いを抱いた野澤さん。鹿児島へ渡り、薩摩切子の職人として働き始めます。その3年後、次は大分の由布院民芸村ガラス工芸所に入社し、そこではガラスの置き物を作る技術を習得しました。

新潟に戻り、準備期間を経て、2013年に満を持して<TAKU GLASS>をオープン。「彌彦神社前の場所を選んだことは結果的に成功だったと思います。県内だけでなく県外のお客さまにも立ち寄っていただけますし、神聖なイメージが商品の魅力を後押ししてくれています」。

徹底した「お客さま視点」

<TAKU GLASS>を開店したのは、2013年のゴールデンウィーク前。すぐに風鈴が注目されましたが、お盆を過ぎて夏も終わりに差し掛かると、風鈴を求める人もいなくなりました。「どうしようかと考えていた時に、秋は苔玉が人気だと聞いたことがあるのを思い出しました。そこで植物とガラスを組み合わせようとひらめきました」。野澤さんは早速、ガラスの器に水分を吸収するゼリーを入れ、そこに観葉植物を活けて商品化。目新しさと手軽さが参拝客の心をつかみました。

色とりどりのお皿やコップが並ぶ店内

次に誕生したのが干支の置き物。「神社前のお店だから、縁起物が喜ばれる」というアドバイスをもらったことがきっかけでした。「最初はリアル路線だったんですけど、お客さんから不評でしたね。かわいいデザインで作り始めたら、よく選んでいただけるようになりました」という言葉の通り、<TAKU GLASS>の最大の特徴は、徹底した「お客さま目線」。店頭での会話からの情報収集はもちろんのこと、来店客が商品を手に取って棚に戻した様子を見て、野澤さんは考えを巡らせます。

「デザインは良かったのでしょう。でも戻したということは、持った時に微妙に重かったとか、何かが違うと感じたのだと思います」。お客さまの様子を見て、商品を改善し、また店頭での反応を観察する。その繰り返しで、グラスやお皿などの定番商品も人気になりました。

販売スタッフの軍司友里絵さん(左)と小林美和さん(右)

商品のアイデアは、店頭で販売を担当するスタッフからも集まってきます。「お客さんの声を形にして、お店に並べて、またお客さんの声に耳を傾ける。そのスピードが速いのは、製造直売のお店だからこそ。自分で体感したことをお客さんに伝えてもらいたくて、販売スタッフたちにもガラス作りを体験してもらっています」。職人がお店を持つことの利点を、野澤さんは最大限に活かしています。

弥彦と伊勢丹をつなぐ

2017年4月。NIIGATA越品バイヤーの長谷川雅史は、<TAKU GLASS>の風鈴の展示を計画。2階と5階のフロアを美しいガラスと涼感あふれる音色で彩りました。

風鈴と竹を組み合わせ、和の雰囲気を演出

年末年始に販売した干支の置き物やガラスの鏡餅も大好評。「かわいいと言って手にとってもらえることが圧倒的に多い。毎年干支をひとつずつ揃えているお客さまもいらっしゃるようです」。

「産地とお客さまをつなぐことが、NIIGATA越品の大切な役割」と語る長谷川。「伊勢丹をきっかけに、弥彦のお店に足を運んでいただければ嬉しいです」。野澤さんは「エムアイカード(三越伊勢丹グループのクレジットカード)で支払いをするお客さんが多くなりましたよ」と笑います。

「喜んでもらえることを一番大事にしたい」という野澤さん。<TAKU GLASS>のガラス作品にどこか親しみを感じるのは、誰かの笑顔を思う野澤さんの人柄がにじみ出ているからなのかもしれません。

ガラス職人の川島茂雄(右)さんと。<TAKU GLASS>のアイテムは二人で手作りしています

<取材後記>
窯からの放熱で、特に夏は灼熱状態となる工房。それでも「汗がダラダラと流れてくると、なんだかテンション上がるんですよね」と、野澤さんはカラッとした表情。天性のガラス職人なのか、根っからの前向きなのか。おそらく両方なのでしょう。「工房も店頭も、どちらも大事」と考える野澤さんは、来店客の一挙手一投足をすべて作品づくりに活かそうと考えています。「お皿が売れなかった、残念」ではなく、「お皿が売れなかった。じゃあ、もう少し軽くしてみたらどうだろう」という発想の人なのです。そして、そういったアイデアは全国のガラス産地を渡り歩き、幅広い技術を見聞して習得してきた野澤さんだからこそ、実際に形にすることができます。お土産にいただいたガラスのコップを使ってみると、なるほど絶妙な重さと口当たり。今年の夏は飲み物を口にするのが、いつもより楽しみになりそうです。

TAKU GLASS
〒959-0323 新潟県西蒲原郡弥彦村弥彦3022-4
電話:0256-78-7741

取材・文章・撮影:横田孝優(ザツダン)