糸魚川市 <ao(アオ)>

着心地のよさと長く愛用できるデザインで、NIIGATA越品の定番商品として人気の<ao>のガーゼ服。糸魚川市の縫製企業『美装いがらし』から誕生したファクトリーブランドです。「つい、また手にとってしまう」と数多くのリピーターから支持される高い品質は、自分たちにしかできないことを追い求めてきた約15年間の蓄積によって生み出されています。

自然素材の心地よさ

思わず顔をうずめたくなる柔らかさ。自然素材独特の心落ち着く風合い。<ao>のガーゼ服の最大の特徴は、この心地よさにあります。ガーゼと言うとベビー服のイメージが強いですが、優しい肌触りは大人にとっても魅力的。綿の糸をゆるく撚り、縦横交互にあまく織って作られるガーゼは、吸湿速乾性や通気性がよい素材。汗をよく吸ってくれて、洗濯後にもすばやく乾きます。<ao>はシャツやワンピース、ジャケット、コートなど、女性用・男性用のアイテムを展開。さらにはタオルや雑貨などもラインナップ。2005年に『美装いがらし』の自社ブランドとしてデビューし、現在では独立した企業となっています。

ガーゼのシャツやブラウスは、空気をまとっているかのような着心地
「失敗を重ねて、今の品質にたどり着きました」と話す、<ao>の五十嵐昌樹さん

「縮み」から、安易に逃げない

『美装いがらし』の縫製工場を見学しました。ここで生産される製品のうち、5割強が<ao>のアイテム、残りはアパレルブランドなどから請け負ったシャツやブラウス、ユニフォームが占めています。

まずは「放反(ほうたん)」という生地をリラックスさせる工程からです。生地はくるくると巻かれた状態で入荷されるので、余計な力が加わっています。生地をしばらく放置して本来の状態に戻します。

さまざまな素材やデザインの生地がストックされた倉庫。オリジナル素材も開発しています

次の工程が「延反(えんたん)」です。生地をまっすぐに伸ばしながら、重ねていきます。ボーダーやチェックの生地は無地のものに比べて歪みが出やすく、場合によっては生地の端の「ミミ」の部分にハサミで切れ込みを入れて整えていきます。

繊細な力加減が求められる延反の作業

パソコンでパターン(型紙)を作り、そのデータを裁断機に送って「裁断」の工程に入ります。使われているのは2018年に導入したばかりのIoT搭載の自動裁断機。あっという間に生地がパーツに分けられていきます。

CADというコンピューターソフトでパターンを調整
データが裁断機に送られ、生地が全自動でカットされます

ガーゼは非常に取り扱いが難しい生地ですが、「縮み」がその理由。水で洗うとどのくらい縮むかを表す「寸法変化率」が他の素材よりも大きく、<ao>の定番素材である「なめらか天竺(二重天竺ガーゼ)」という生地の寸法変化率は30%(縦横の合計)を超えます。一枚のガーゼ服ができあがるまでには、洗い加工やタンブラー加工、アイロンによる熱など、生地を縮ませるさまざまな要因が存在。<ao>の五十嵐昌樹さんは製品づくりの難しさについて、「一般的に生地は加工することで縮みを防ぎますが、<ao>は天然繊維本来の風合いや肌触りを残すために加工剤などを使用しません。そのため、ここまでに出てきた延反・型紙制作・裁断の工程は、生地の縮みを加味しなくてはなりません」と語ります。寸法通りの製品を完成させるために、量産の前に何度も試験をして微調整を加えていくそうです。

五十嵐さんは「こんなクレイジーなことができるのは、自社工場だからでしょうね」と笑います。<ao>の誕生から繰り返してきた失敗と改善の積み重ね、そして従業員の高い技術によって、容易に真似することができない生産方法が実現できるのです。

丁寧な手仕事が、細部に神を宿す

『美装いがらし』では10代から70代まで、約60人の社員が働いています

次に見せてもらったのが、縫製の工程。広い作業場に無数のミシンの音が響きます。襟や袖などの各パーツの縫製やボタンの取り付けなど、作業は細かく分担され、フロアの奥に行くほど完成品に近づいていきます。『美装いがらし』の縫製技術者は、一人ひとりが幅広い作業に精通する「多能工」。多様なデザインの縫製を請け負える生産体制が確立されています。

シャツのパーツを組み合わせていく縫製作業
左右の襟を見比べてみてください

技術の差は、たとえばこんなところに出るそうです。このシャツの襟、左右対称に見えますよね。着用した状態で左右対称に見えるということは、下前になる方の襟(この場合、向かって右側)をやや長めに縫わなくてはなりません。また、襟先がすとんと下を向くためには、裏側を数ミリ短くする必要があります。時々、襟先が浮いてきてしまうシャツがありますが、そういった微調整が施されていないのが理由。『美装いがらし』のシャツは縫い代もきれいに織り込んであり、襟先を指でつまんでもごろつきがありません。細部に神を宿すのは、丁寧な手仕事なんですね。

熟練の技によって、あっという間に縫い上げられていきます
アイロンでパーツのよれなどを整えます
ボタンホールを開けて、周囲を糸で縫う作業
無駄のない手さばきに、目が釘付けになります

ここまでハイレベルな縫製作業ができる国内工場は、だんだん減りつつあるそうです。『美装いがらし』は、人材育成と技術継承を重視。新卒者を毎年採用し、社員の平均年齢は40歳を下回るまでに下がりました。66歳で定年を迎えた社員も希望者は雇用を延長し、若手のサポートを任せています。かつて管理職を務めた社員は、管理職手当込みと同額の給与で働き続けられるとのこと。技術者が誇りを持って働き続けられる会社なのだと感じました。人材不足が叫ばれる中で、高い品質を提供し続けられる理由に納得です。

後編では、<ao>がリピーターから支持される理由、そして未来に向けた展望についてご紹介します。

株式会社アオ
ao daikanyama
〒150-0034 東京都渋谷区代官山町10-4
電話:03-3461-2468


株式会社美装いがらし
〒941-0003 新潟県糸魚川市大字中宿942
電話:025-555-2300
WEB:http://bisou-igarashi.com

取材・文章・撮影:横田孝優(ザツダン)