五泉市 サイフク


新潟県五泉市が日本を代表するニット産地だとご存知でしょうか。普段ニットを購入する際、アパレルブランドの名前を気にすることはあっても、生産地を確認することはあまりないはず。もしかすると、あなたの愛用のニットも五泉市で作られたものかもしれません。

サイフクは、五泉市で1963年に創業した老舗ニットメーカー。社内の生産比率90%以上という一貫体制が最大の特徴です。ポンチョブランドの「mino」でご存知の方も多いかもしれません。

安定の高クオリティ、そして編地開発力

五泉市はその名の通り、昔から水に恵まれた土地でした。現在でも水道水に地下水が使われるほど。「精練という工程で大量の水を必要とする機織りが盛んになり、やがてニット生産に変遷してきたと聞いていますが、はっきりとしたルーツは分かりません」と語るのは、常務取締役の斉藤佳奈子さん。そんな中で、サイフクは56年前の創業当時からニット製造を専門としてきました。

ニット製品によって生産工程の数や種類は異なりますが、分業体制を取っているメーカーが多く、ほとんどの製品を一貫生産しているサイフクは貴重な存在です。工程を社内に集めるメリットは目が行き届くこと。クオリティの高い製品を安定的に生産することができます。

サイフクのもうひとつの強みが「編地開発力」。編地とは原料の糸を編んで作られた生地のことで、ニット製品は編地を縫い合わせて作られます。糸の色や太さ、編み方のパターンによって、できあがる編地は千差万別。最終製品の出来栄えを左右します。サイフクはこの編地開発力を活かし、アパレルブランドからの要望に対してそのまま作るのではなく、より良い方法を提案することもあるそうです。「デザイナーさんが漠然とイメージしているものを、どうすれば形にできるかを一緒に考えるようにしています」。多くのアパレルブランドが、サイフクの品質と編地開発力に信頼を寄せています。

無数の編地サンプルを見ていると、デザインや表現の幅広さに驚きます

多くの人の手を経て、ニットは作られる

工場見学をさせてもらいました。生産工程の前に、まず原材料の仕入れ。綿、麻、ウール、アルパカ、シルク、カシミヤ、アクリル、ポリエステル、それらの混合など、多種多様な糸を世界各国から輸入して糸は作られます。

その後サンプル室では、アパレルブランドのデザイナーと打ち合わせをして、編地や形が決まった段階でサンプルを製作。そこに修正や追加要望が入り、何度ものやり取りやサンプル作りを経て、最終の仕様が決定します。またサンプルを作る上でのデータを取りながら、作業工程や所要時間を測定し、時には縫い方の改善なども検討して、量産計画へ落とし込んでいきます。

次は編みデータのプログラミング。編地は機械が全自動で製作するのですが、どんな糸でどんな編み方をするかという指示を機械に伝えるためのデータのプログラムを組んでいます。

専用のソフトを使って、編み方をプログラミングしていきます

続いては編み立ての工程。編み機の中の一本一本の針がプログラム通りに動くことで、編地が作られていきます。針は細いものから太いものまで、機械によってさまざま。針の太さによって、編める糸の太さも異なります。サイフクにはおよそ80台の編み機がありますが、針を入れ替えることはできないので、その年の流行によって機械の忙しさにバラツキができるそうです。

編み機の見た目はどれも同じですが、内部で使われている針の太さはさまざま
機械の窓から針の動きが見えますが、速くて目が追いつきません
一本一本の針が順番に作動し、編地ができあがっていきます
糸から編み地にすることが最初のステップ

編地は型紙に合わせて裁断され、縫製へ。前身頃、後身頃、左右の袖を縫い付けていきます。

編地と型紙を合わせ、機械で一枚ずつ裁断します
縫製の作業は3人1組。効率良く作業を進めるためのチーム編成になっています

ニット特有の「リンキング」。縫い代なしで縫製ができ、襟などの頻繁に伸び縮みするパーツに向いている方法です。針が円形に並んだ専用の機械に、編地を一目一目刺していきます。緻密さとスピードが大切で、集中力が要求される作業です。

円状に針が並ぶ、リンキング専用の機械。その一本一本を編み目に刺していきます
伸び縮みというニットの特徴を保ちつつ、異なる編地を縫い付けられるのがリンキングの利点

巨大な洗濯機と乾燥機を使う「洗い」の工程です。ニットの風合いを出す目的のほか、あらかじめ湯通しをして家庭で手洗いできる状態にする場合もあります。

サイフクは1台の洗濯機と2台の乾燥機を保有。この工程だけを請け負う企業もあるそうです

続いて、仕上げ作業。ボタンを取り付けたり、ブランドタグを縫い付けたり、製品によって作業内容は多岐にわたります。

蒸気を使って編地をセットする工程は、裁断前と最終の2回。生産過程でできたシワや縫い縮みを整えます。

最終工程のセットでは、センスや精度が求められます。

最後に検品・梱包をされ、出荷されます。

編みキズや、縫製やリンキングの編み目をしっかりチェックします
価格札などをつけて、袋詰めし、出荷します

比較すれば、品質の違いは一目瞭然

「サイフクのニットは他のブランドと並べて販売すると、お客様の反応がいいんですよ。違いが分かるから」と語るのは、担当バイヤーの松田恭孝。自身でもサイフクのスヌードを愛用するほど、その品質に惚れ込んでいる一人です。「柔らかくて、巻きやすいんですよ」と熱弁します。

「サイフクの品質は絶対的に信頼できます」と、バイヤーの松田

松田が考えるサイフクの強みは、やはり一貫生産。品質の高さとコストパフォーマンス、そして縫製の技術に驚いたそうです。2015年の春夏から現在まで、伊勢丹オリジナルブランド「EPPIN EYE」にもサイフクのニットはラインナップされています。


「物が売れにくい時代になり、アパレルブランドは新しい製品を作ることに躊躇しています。ですが、クオリティの高い品物を求めるお客様は確実にいることを私たちは知っています。自信を持っておすすめできる定番商品を作ろうという思いのもとに、サイフクさんにご協力をお願いしました」。お客様の声をもとに改良を加え、今シーズンも自信作が完成しました。

EPPIN EYEの差し込み式マフラー(手前が今シーズンのもの)。昨シーズンに比べ、柔らかさが格段に進化しました

ニットの見方が変わってしまう工場見学

たくさんの製品サンプルが展示されているサイフクの商談スペース。工場見学を終えて戻ってくると、一枚一枚のニットがまったく違うものに見えてきます。サイフクは一般向け工場見学を定期的に開催しているので、興味のある方はぜひご参加ください。ニットの生産現場を見れば、クローゼットの中のニットも今まで以上に大切に思えてくるのではないでしょうか。


サイフクはポンチョブランド「mino」の企画・生産・販売も手がけています。雪国の冬に使われてきた「蓑」から発想されたシンプルなデザインはどんなファッションとも相性が良く、ワンサイズ展開のためプレゼントにも便利です。

minoの「yoko」タイプ。一枚かぶるだけであたたか。
minoのスヌード「tsutsu」。気軽に身につけられ、アレンジも自在です。

寒くなる季節に向けて大活躍してくれるニット。この一枚が作られるまでのたくさんの工程とたくさんの人の手を思えば、温かさをより一層感じることができそうです。

有限会社サイフク
〒959-1837 新潟県五泉市寺沢1-6-37
電話:0250-43-3129


取材・文章・撮影:横田孝優(ザツダン)