五泉市 高橋ニット

豊富な水資源を持つ利点を活かして、日本有数のニット産地となった五泉市。日本内外のブランドからの受注生産で数多の実績を誇る高橋ニットも、五泉市を代表するニットメーカーのひとつです。強みは、デザインの提案力、そして異素材とニットを組み合わせる縫製技術。実際に見せてもらうために五泉市を訪れました。

50以上の提案サンプルを毎シーズン製作

1955年創業の高橋ニット。時代の要望に応えることで製品群を増やし、トップスからボトムス、小物など、フルアイテムに対応できる技術を培ってきました。「編み立ての機械やミシンは、どのニットメーカーもほぼ同じ物を使っているため、差別化にはなりません。そこで高橋ニットが力を入れているのが提案力です」と、常務取締役の高橋慶至さんは語ります。

「Chemin de Rose」「PRODIGAL」「toiro」といったオリジナルブランドも多数展開する高橋ニット

社内には企画課という部署があり、試作や工程立案だけでなく、オリジナルのサンプル製作にも取り組んでいます。その数は、毎シーズン50サンプル以上。トレンドを反映させた、ニットの魅力を活かす方法を模索して製作に当たります。営業企画部の岩村太一さんは「お客様との打ち合わせの際、何もないとイメージだけで話を進めなければいけないのですが、サンプルがあれば具体的な提案ができます」と、その利点を語ります。ブランドからの指示通りに生産することが一般的な受注生産において、高橋ニットのように積極的に提案するスタイルは珍しいそうです。

時代や流行を読み、サンプルを製作する企画課

提案に加え、高橋ニットが得意とするのが、異素材との組み合わせ。ジャージー、布帛、皮革などとの掛け合わせで、ニットの世界に大きな奥行きをもたらしています。性質の違う素材を組み合わせるには高い縫製技術が必要であり、豊富な経験値なしでは実現できません。

異なる素材と組み合わせることで、ニットの可能性を広げています

大手ブランドからの受注に対応できる生産能力

五泉市にはニット生産の各工程に特化した工場が多くあり、町全体がひとつのニット工場のようでもあります。高橋ニットでは、製品の約8割を協力会社との連携によって生産しています。

まずは企画。デザインやサイズを考案し、試作品を製作。量産が決まれば、パソコンを使って型紙を作ったり、生産工程を決めたりします。

パソコン(CADシステム)を使って型紙を作成
量産前の試作品を製作。工程の確認などもします

編み立ての工程は、全自動の機械に任されています。糸をループ状に編んでいき、編地を作っていく機械は約50台。ローゲージやハイゲージと言ったように、ニットは編み目の大きさの表現として「ゲージ」を用いますが、これは1インチ(2.54cm)の間に針が何本入るかを表しています。たとえば12ゲージは、1インチに12本の針が入るということ。ローゲージからハイゲージになるに従って、ニットの目は小さくなります。

所せましと並ぶ編み立て機。1日20時間体制で、夜中も作動しています
目にも留まらぬスピードで編地が作られていきます
針の間に糸くずやホコリが溜まるため、定期的なメンテナンスが欠かせません

続いては、裁断と縫製の作業。型紙に合わせて編地をカットして、縫い合わせたり、ボタンを取り付けたりします。最初から衣服の形に立体的に編み上がる「成形編み」という機械もあり、条件に合わせて使い分けています。

複数の編地を重ねてカットすることで、効率的に作業を進めます
ニットと異素材を縫い合わせる作業。高い技術が要求されます

リンキングの作業。編地を普通に縫製すると、ニットの特徴である「伸び」の性質はなくなってしまいますが、チェーンステッチで繋ぐことで「伸び」を失わずに縫い合わせることが可能です。襟や袖などで使われています。

ニットの目に糸を通して縫い合わせるリンキング

仕上げ、検品、アイロンの工程を経て、出荷されます。万が一にも製品の中に針が残っていることのないように、すべて金属探知機でチェックされています。

アイロンをかけて形を整えたら完成です

越品オリジナル商品の開発にも提案力を発揮

新潟伊勢丹オリジナルブランド「EPPIN EYE」に高橋ニットの商品が登場したのは、2016年の秋冬のこと。それ以来毎シーズン、お客様からの要望を取り入れた改良が加えられています。担当バイヤーの山下憲一は「伊勢丹として作りたいものはありながらも、私たちはデザイナーではないので具体的なデザインに落とし込むことができません。高橋ニットさんには、思い描いた商品を形にする技術があるので、そこが魅力です」と語ります。

「良質なアイテムを適正価格で提供するために、高橋ニットさんは欠かせないパートナーです」と山下

シーズンごとに新アイテムにも挑戦しています。ベーシックなインナーだけでなく、カーディガンや五分袖のワンピースなど、季節の変わり目に便利な一着もラインナップに加えました。また、お腹周りやアームホールに余裕をもたせ、着心地の良さも妥協なし。カラー展開も、黒やブラウンなどの定番色に限らずバラエティー豊かに取り揃え、色を選ぶ楽しさも提供します。

根強い人気の「Vネック」を今年もラインナップ

無限の選択肢から絞り込んでいくプロの目

知れば知るほど奥が深いニットの世界。糸の種類だけでもその数は膨大で、理論上は無限に種類を増やしてくことが可能なのだそうです。要望に合わせて、糸を選び、編み方を選び、素材の組み合わせ方を選んでいく。最適な方法を導き出す選択眼は、まさにプロの技と言えるでしょう。

無数の糸のサンプルを所蔵。企画スタッフたちはほぼ全て頭に入っているそうです

岩村さんは「私たちのお客様は全国にいますが、気候や生活様式によって好まれるニットが変わってきます。新潟のお客様に一番近い新潟伊勢丹さんからの要望は、私たちにとっても参考になります」とNIIGATA越品への思いを語ってくれました。ニットの真の魅力を知るには、直接見て触れることがやはり一番です。高橋ニットの高い技術を、ぜひ新潟伊勢丹で感じてください。

高橋ニット株式会社
〒959-1876 新潟県五泉市泉町2-3-15
電話 : 0250-43-3221


取材・文章・撮影:横田孝優(ザツダン)