上越市 falaj(ファラジ)

丸山慎二郎さんと宮下淳代さんの夫婦二人で営むガラス工房「falaj(ファラジ)」。上越というガラス工芸とは縁遠い地で、なぜ二人は作品づくりをするようになったのでしょうか。

falajの物語を追いかけていくと、そこにはガラスが巡り合わせた出会いがありました。

ガラスとの出会い、二人の出会い

慎二郎さんは、新潟県上越市生まれ。絵を描くのが好きな子どもで、高校卒業後には芸術の道を志すようになります。でも絵や陶芸では物足りない。どうせやるなら、周りにやっている人がいない分野がいい。「とにかく難しそうなものを」と考えた先に見つけたのがガラスの世界でした。ところが、当時はまだ国内にガラス工芸を学べる学校が少なかったため、1999年に本場イタリアへ単身で渡ります。

働かせてもらえる吹きガラス工房を自力で探し出し、修行の日々がスタートします。ガラス職人は、「見て覚えろ」の厳しい世界。おまけに慎二郎さんはイタリア語がほとんどわかりませんでした。

「マエストロから罵声を浴びせられても理解できないんです(笑)。結果的にそれが良かったのかもしれません」

ガラス職人として腕を磨き、2002年に帰国。デザインを学び、2010年に淳代さんと結婚するまでは東京で仕事をしていました。

淳代さんは長野県出身。ガラスと無縁だった人生が転機を迎えるのは、大学4年生。就職が決まらず悩んでいる時でした。テレビ番組を見てステンドグラスの美しさに感動したお母さんにすすめられ、専門学校の扉を叩きます。

「そこはステンドグラスの本格的な学校で、教授陣は日本の第一線の方ばかりなんですよ」と慎二郎さん。「他の生徒は脱サラしてきた人とか、人生を賭けている人ばかり。周りに遅れを取らないように2年間必死でした」と淳代さんは、学生時代を振り返ります。

在学中に実家が長野から上越へ引っ越し。卒業後、淳代さんは現在の場所に工房を開きます。ステンドグラスは受注生産に限られてしまうため、友人に教えてもらったフュージングによる作品づくりを並行して始めることにしました。

「上越はいい人ばかりで、うちで展示してみない?と声をかけてくれる人がいました。フュージングも面白がってもらうことができて、徐々に仕事が広がりました」

2009年の年末、帰省していた慎二郎さんは雑誌で淳代さんの存在を知ったことが工房を訪問するきっかけに。ガラスという上越では珍しい共通項を持つ二人はすぐに意気投合します。翌年には結婚し、falajを立ち上げました。

ガラスを作ることを生業としてきた二人。人生を決定づける出会いをもたらしたのもまた、ガラスでした。

カラフルで存在感バツグンのブローチ。

越品ステージで起きた変化

falajは2016年3月の最初のキャンペーンから、NIIGATA越品の定番。色鮮やかなガラスの美しさと使いやすいシンプルな形から、食器フロアの人気アイテムとなりました。

ところが本当の意味でNIIGATA越品の看板商品になったのは、2017年4月のNIIGATA越品ステージオープンの時だったと、バイヤーの長谷川は語ります。

バイヤーの長谷川雅史。

「5階から2階のNIIGATA越品ステージへ移動したことで、お客様の目に触れる機会が増えました。そのことで、お皿としてだけでなく、アクセサリーや小物を置く器として、特に若い女性のお客様が購入してくださるようになったのです。食器フロアの時にはなかった、全く新しい反応でした」

越品ステージは2階の出入口に近く、アクセサリーやアパレルのフロアへの導線上に位置します。越品ステージへの出品が、ファッションに関心の高いお客様とfalajが出会うきっかけとなったのでした。

新潟伊勢丹2階のNIIGATA越品ステージ。

「品質の高いアイテムを作っている作家さんをより多くの人々に知ってもらうことがNIIGATA越品の目標のひとつです。新潟では珍しいガラス作家であるお二人を後押しできている手応えを感じています」

新潟の模様をガラスに刻む

2016年、NIIGATA越品ではfalajとの限定コラボ商品を販売。笹団子や錦鯉などの模様を小皿に刻んだ、新潟らしさが溢れるアイテムでした。2018年夏のNIIGATA越品では、さらに磨きをかけて再登場します。

以前は白と透明というシンプルなカラーリングでしたが、今回は模様に合わせた配色にアレンジ。

錦鯉は「赤」と「白」。
笹団子は「緑」と「茶」。
スイカは「赤」と「緑」。

一枚ずつ手作業で模様を刻んだ、愛情と手間ひまがたっぷり詰まった小皿です。

「上越は景色も素敵だし、四季も味わえる、素晴らしい場所。イタリアや東京に住んでみて、改めてその魅力に気づきました。新潟でやるからには、新潟の人たちに好きになってもらえる作品を生み出したいです」と、慎二郎さんは語ってくれました。

使う人の数だけ、楽しみ方が広がっていくfalajのガラス作品。「素敵なことを分かち合いたい」という二人の思いは、波紋のように広がっています。

falaj
新潟県上越市大学前65
電話:025-523-1696


取材・文章・撮影:横田孝優(ザツダン)