阿賀野市 八米(はちべい)

花の種類ごとに数字を割り振ったハニーナンバーという独自のラインナップで、味や香りの違いが楽しめる八米のハチミツ。養蜂家の髙橋さんは、阿賀野市でハチを飼育しながら米作りもしています。

その原点には、地域を大切にしたいという髙橋さんの情熱と、彼を支えるたくさんの人々の思いがありました。

妻の出産を機に、養蜂家の道へ

髙橋さんが養蜂を始めたのは2013年。35歳の時でした。それ以前は建設会社に勤務し、群馬に単身赴任をしていたのですが、妻の出産を機に転職を決意しました。

地元の阿賀野市でできる仕事は何か。髙橋さんは考えました。農家だった祖父母からは米作りを、趣味でハチを飼っていた父からは養蜂を、それぞれ受け継ぐことに。

「最初は上手くいきませんでした。巣箱を置けばどこでもハチミツが採れるだろうと思っていたんですが、それが間違い。でも失敗したから気づけたことが多いのも事実です」

1年目の経験をもとに、ハチミツの生産量と収益の関係を学ぶことができた髙橋さん。2年目からは目標を設定し、事業として確立させることを意識するようになりました。

家族みんなで作った「八米」

ロゴマークやパッケージなど、八米はデザインもクオリティが高く、お客様から選ばれる理由のひとつになっています。デザインを形にする上で支えとなったのが、髙橋さんの奥様のご家族。ジュエリーショップを展開する企業を経営し、ブランドプロデュースにも精通する強い味方でした。

ハニカム構造を採用した、八米のギフトボックス。

「養蜂家として何を目指すのか。なぜ阿賀野市でやるのか。最初に徹底的にヒアリングしてもらったから、自分の中に強い理念ができあがりました」

八米が拠点とする阿賀野市の笹神地区は、環境循環型農業に取り組んできた土地であり、特にハチが弱いネオノコチノイド系の農薬の使用量を減らすよう努めてきた歴史があります。「ハチ」と「米」と生きていくという決意を込め、「八米」という名前が生まれました。

次に作ったのは、ひまわり畑

養蜂家は、春から秋にかけて花の咲く土地を訪れて仕事をします。いわば花を追いかけていくような生活。そんな髙橋さんだからこそ、環境の変化を敏感に感じています。花が咲くのを待つだけではいけないのではないか。そこで考えたのが、自らの手でひまわり畑を作ることでした。

「ひまわりを見ると、気持ちが明るくなるじゃないですか。人もハチも元気にしてくれる花。それがひまわりだと思ったんです」

地域の園児たちと種を蒔いたひまわり畑。花が咲くのが待ち遠しい。

「これをやろう」と志すと、それを支える人が自然と現れるのが、髙橋さんの不思議なところ。花畑を作るための情報を教えてくれる人、耕作放棄地を貸してくれる人が次々に見つかりました。

ひまわり畑に初めて挑戦したのは昨年のことです。一面にきれいな花が咲くと、地域の方にも喜んでもらうことができました。現在はひまわりを使った「油」を企画中。「障害者施設と協力して収穫や生産をする農福連携によって実現したい」と語る高橋さんには、実はもう一つ大きな目標があります。

「農業が、子どもたちがやりたいと思える仕事であってほしいんです。自分が作ったものを人が食べて、おいしいと言ってくれる。素晴らしい仕事だと思います」

季節の花という土地の恵みから、ハチと人の共同作業によって生まれるハチミツ。甘い贈り物の中には、地域の物語がたっぷりと詰まっていました。


八米
生産住所:新潟県阿賀野市中島町11-20
電話:025-246-0800

取材・文章・撮影:横田孝優(ザツダン)