阿賀野市 八米(はちべい)

ハチミツの食べ比べをしたことがありますか。

同じ養蜂家のハチミツでも、蜜を集めた植物が違えば、その味は全くの別物になるのです。

菜の花のハチミツは、春を感じさせる華やかな味と香り。アカシアは爽やかで角がなく、誰もが食べやすい味。藤の花は上品な香りを持ちながらも、味わいは力強くワイルド。

季節ごとに咲く花の特徴に目をつけ、独自の「ハニーナンバー」を展開する八米のハチミツ。香りや味わいの違いを楽しむことができます。

花が咲く場所を求めて

八米の養蜂家、髙橋敦志さんに会うために阿賀野市を訪ねました。

自然豊かな里山で、髙橋さんのハチは暮らしています。

養蜂家の必需品、燻煙器(くんえんき)。ハチは煙を吹きかけられるとおとなしくなる習性があるため、巣箱を開ける前に使います。

八米の代表、養蜂家の髙橋敦志さん。

ひとつの巣箱の中に、さらに10枚程度の巣枠(すわく)が入っています。ハチは一匹の「女王バチ」を中心に「メスの働きバチ」と「オスのハチ」で群れを作りますが、この巣枠一枚一枚にひとつずつ群れができあがっています。


「食べてみますか?」と髙橋さん。

ふれてみると、ほんのり温かなハチの巣。

おそるおそる指で巣を押してみると、ジワーッとハチミツが溢れてきます。口に運ぶと、爽やかな香りが鼻を抜け、優しい甘さが口の中に広がりました。

八米では約80万匹のハチを飼育しています。養蜂以外に米作りや花畑作りも手がける高橋さんが一人で管理するのに適した数であり、また蜜源となる植物の量とのバランスもちょうどいいのだと教えてくれました。

「八米のハチミツは阿賀野市で採れるものだけではありません。花の種類によっては他の地域にハチを連れて行って蜜を集めています。ただ蜜を採らせてもらうだけでなく、ハチミツを通じてその地域の魅力を広めるお手伝いをすることで、地域に還元することを意識しています」

隠しきれないハチへの愛

ハチのことを語り始めると、止まらない髙橋さん。

「ハチを見ていると、いつもすごいなと思うんですよね。例えば、もっとも効率的な図形は正六角形だと知っているんですよ」

空間に小さな部屋を敷き詰める場合、隙間なくできる形は正三角形と正方形、そして正六角形。その中でもっとも面積を大きくできるのが正六角形なのです。このハチの巣の構造はハニカム構造と呼ばれ、人工衛星などにも応用されています。

ハチの魅力は?という質問には、「いつも一生懸命なところです」。女王バチが卵を産み、働きバチが蜜や花粉を集め、幼虫の世話をする。働きバチはすべてメスで、オスは唯一の仕事である交尾を終えると、巣から追い出されてしまいます。群れの中に組み込まれた完璧なシステムを実直に進めるハチの姿に、髙橋さんは心打たれるそうです。

「羽音からの小さなサインも聞き逃さないように、作業中は音楽やラジオはかけません。天気のいい日は、巣箱を眺めながら自分が作ったお米のおにぎりを食べるのが最高です」

そう語る笑顔から、溢れんばかりのハチへの愛情が伝わってきます。

バイヤーも驚いたデザイン性

八米は、2014年度ギフトカタログから新潟伊勢丹での販売がスタート。NIIGATA越品が始まる2年前でした。当時、食品担当バイヤーだった長谷川礼人は、そのデザイン性の高さに驚きました。

食品担当バイヤー、長谷川礼人。

「新潟で作られた高品質のハチミツという中身の魅力も去ることながら、パッケージのデザインが素晴らしく、ネーミングやコンセプトにも惹かれました」

当初はギフト用アイテムとして展開されていた八米のハチミツでしたが、NIIGATA越品のスタートを機に単品での販売を開始。じわじわと認知度が高まり、人気商品のひとつとなりました。

「特にお客様の反応が良かったのが、ナッツをハチミツに漬けたナッツスター。そこでこの商品をアレンジして、伊勢丹オリジナルのアイテムを作りませんか?と提案しました」

新潟伊勢丹オリジナルの八米のハチミツ。

こうしてナッツのハチミツ漬けにミカンを加えた商品や、イチジクを加えた商品が誕生。果物の味や香りが加わることで、複雑で奥深い味わいを楽しむことができます。

次回の後編では、八米の誕生秘話や髙橋さんの夢について、紐解いていきます。


八米
生産住所:新潟県阿賀野市中島町11-20
電話:025-246-0800

取材・文章・撮影:横田孝優(ザツダン)