TOKYO解放区デザイナーをもっと“知る”インタビュー Vol.1
伊勢丹新宿店では、2月26日(水)より、作り手の哲学に触れてお客さまにファッションを選んでいただくことをテーマにしたニューカマー企画「TOKYO解放区 “知る”」を開催いたします。店頭にはクリエーションの過程に「哲学」のある4ブランドとして〈koll(コール)〉、〈RURI.W(ルリ)〉、〈SREU(スリュー)〉、〈BELPER(ベルパー)〉を展開。
これら4ブランドをよりたのしく知ってもらうための連載インタビュー第1弾。今回は〈koll〉のデザイナー楠原さんへのインタビューをTOKYO解放区バイヤーのちばと一緒に行いました。
―――なぜ、服を作り始めたのでしょう?
小さい頃から、自分で考えて手を動かしてものを作るのが好きでした。祖母が洋裁をする人だったので、祖母の家に行くと立派なミシンがありました。そんな影響もあってか、小学校に入る前には人形の洋服を自分で作っていました。小学校に上がる頃にはデザイン画を描くように。思春期になってファションの専門学校の夜間コースに通い始めたのですが、服を作っているときは、日々の悩みを忘れることができて、ファッションを通して、一時だけでも夢を見ることができる、と感じたことがあって。そんな思いが今も洋服を作り続けている大きな理由の一つだと思います。
―――洋服を作りたいなと言う思いから、ブレることなくデザイナーになる道に進んだと。楠原さんはファッションを学びにロンドンに行かれたんですね。
1年ほど、ロンドンカレッジオブファッションに通いました。ドローイングやコンセプトを考えてスケッチブックにまとめるとか、オブジェを作ったりとか。ファッション全体を俯瞰でみた内容と言うか、イマジネーションの膨らまし方を学んだと言った感じでしょうか?もっとファッションに興味が湧きました。
―――なんでそんなにファッションデザインに惹きつけられるのでしょうか?
さっき、デザインをしている時には悩みを忘れて没頭できるから、とお話しましたが。やはり実際ビジネスになると楽しいことばかりではなく(笑)。でも、根本的には思春期の頃に感じたファッションを通して夢を見ていた時の気持ちが礎になっていますね。すべて忘れて夢中になれるのがファッションデザインの魅力ですかね。
―――そんな楠原さんが洋服を作る時に大切にされていることは?
ジェンダーに関する価値観で、今ではさまざまだと思うのですが、その中でも私が感じている普遍的な女性らしさを必ずどこかに取り入れたいと思っています。そこはいつも意識しています。
―――楠原さんが考える普遍的女性らしさとは?
女性らしさの感じ方と個人差があると思いますが、例えばギャザーが寄っていたり、レースを使っていたりとか。私が思う女性らしさを表現したいと思っています。
―――服に限らず、楠原さんが思う女性らしさってどんなものでしょう?
芯はあるけど、柔らかい感じ。その雰囲気を服に落とし込みたいって言うのはありますね。
―――その辺りのムードっていうか、こだわりっていうのは、デビュー当時から変化ありましたか?
そうですね。デビュー当時は強さがもっと前面で出ていた気がします。
―――意外です!デビュー時から、女性らしいブランドだなと思っていました。強さが控えめになったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?
気が変わりやすいっていうか(笑)。
少し肩の力を抜いてもいいのかなと思うようになったのが正直なところ。等身大の自分の思いを表現したいと。でも、実は力を抜く方が難しいなと最近、は感じています。コンセプト通りに作る方が簡単で、逆にリアリティのある等身大の方に寄せて行く方が、難易度が高い。自分が着たいものを投影し過ぎるのも違う気がするし。
―――その等身大に寄せた服を作り出す工程の中で一番、難しいと思う箇所はどこですか?
最後です。想像を膨らまして服を作り始めるタイミングよりも、だいたい出来上がってきて、本当に私も含め、世の女性たちもこの服たちを喜んで着られるのか?っていう現実的な視点で見たときに、そのさじ加減が難しくて、まだまだ勉強しなくてはと、いつも痛感します。
―――では、服作りでの一番好きなプロセスは?
デザインを考えているとき。特に一部に寄ってディテールをあれこれ思案している時が一番好きです。それは子どもの頃から変わらないですね。
―――その寄りの世界の想像の源って何だったりするんですか?
自分が今、何が好きで、どんなものに興味があるんだろう?ってことは常に意識するようにしています。なので、日常生活で気になったもの、気になった色、何でもヒントになりますよ。
―――2020年春夏は、ブルーが気になったと伺いました。
そうですね。今回は写真家、石内都さんの『Mother’s』が着想源に。石内さんが実母の遺品を撮り貯めた、この写真集に出てくるブルーがとても印象的で引きつけられました。そこで、この青からカラーパレットを広げることに。実は私にとっても、青って特別な色。私は自然が豊かな環境で育ったので、いつも広くて青い空や海が身近な存在でした。だから私にとっても青は身近だけど、特別な色で大好きなんです。
―――今シーズンは色からですが、いつもヒントはさまざまですか?
はい、それはシーズンによります。
―――実際にご自身のお母さまのクローゼットもご覧になったとか。
服が好きな母親が20〜30代の時に愛用していたワードローブです。私も実家にいた頃、その服を借りたりしていました。若い頃、ディオールが好きだったそうで、シルクのブラウスやレースを使ったアイテムなどが大切に保管されていました。その母親から娘へと譲り渡され、大切にされている服って、とてもいいなと。そんな思いも、今春夏のコレクションには投影されています。
―――写真集の『Mother’s』やお母様のクローゼットのお話を事前にお伺いしていたので、楠原さんがデザイナーになられたのもその辺にきっかけがあったりしたのかな?と想像していました。
2020年春夏の新作については偶然。写真集と母親のクローゼットは、たまたま似たタイミングで気になっただけなんです。とは言え、服が好きな母親の元で育ち、姉もファッションが好きだったので、3人で服をシェアしていましたし、自然に自分で服を作っていたので、意識はしてなかったですが自分の環境はデザイナーを目指すには、向いていたのかも。さっきの青についてもそうですが、幼い頃の体験は今のもの作りに影響を与えていると思います。
―――石内都さんの『Mother’s』はどちらでご覧になったんですか?
写真集の存在は知っていましたが、図書館でたまたま手に取る機会があって。
―――毎シーズン、イメージする女性像ってあったりするんですか?
特定のミューズはいないのですが、私自身や周りの女性とか身近な人から感じたことがヒントになることは多いです。毎回、スタート地点はしっかり決めます。その方がもの作りがブレない気がするから。ですから、コレクションのヒントになりそうな要素は常に気にして暮らしています。
―――伊勢丹新宿店にいらしても、いろいろなことが気になりますか?
気になる(笑)。百貨店に行く機会は減ったのですが、伊勢丹新宿店には行きます。いつのぞいても色々なことが展開されていて、楽しい場所だと思う。服がたくさんあって気持ちも上がるし、ディテールも気になります(笑)。今回、この解放区でのイベントに誘っていただき、とてもうれしかったし、ニューカマーが集まるってことでワクワクしますね。
―――今春夏のコレクションを作っている時に、はまっていたこととか曲、食べ物なんてあったりしますか?制作中って普段とリズムは変わるもの?
今回は、ビスケットを食べてました。私が大好きな映画、満島ひかりさんが主演の「夏の終わり」の中で彼女がビスケットを食べるシーンがあって。今回はこの映画のサントラを聴きながら作業していたので、ビスケットを欲したのですかね?没頭しながらも、モリモリ食べるタイプです。
―――先ずは図書館に行って、自分の琴線に触れるものを探すのが第一段階ですか?
図書館が大好きなので、日常的に行きますね。そこでアイデアを膨らませるのも楽しい時間ですが、実際にデザイン画を描いている時間が好き。今回だったら、写真集にあった青、母親のクローゼットにあった昔の服、そして生地屋さんを回って触れた素材などなど、色々な要素を頭の中で織り交ぜて、デザインに落とし込んだ感じです。それをまとめる時間が一番、楽しい。
―――お好きなデザイナーさんとかいらっしゃいますか?
皆川明さんです。学生の時に半年くらいインターンをさせてもらいました。初めは学校に講演会にいらして、その時のお話でもの作りに対する真摯な姿勢が伝わってきて、衝撃を受けました。独自の詩的な世界が確立されていて、その生活全般を網羅するクリエイションが細部まで一貫している。そしてビジネスとしても確立されている。本当に尊敬します。
―――こんな女性たちにコールの服を着て欲しいみたいなのは?
特にはないけれど、自分の意思でコールの服を選んで着て欲しい。誰かが着ていたからではなく、私が着たいからコールの服を選んだ、と言ってもらえると、うれしいですね。
―――将来のビジョンは?
やりたいことはいっぱいある、もっとデザインしたいという衝動はいつも持っています。今、4シーズン目なのですが現時点では日本で頑張って、知名度を上げていきたい。〈koll(コール)〉という名前、聞き覚えがある音だけど、綴りに違和感があるというのが気に入ってつけました。音=ブランド名だけで簡単にイメージできる服にしたくなくて。枠組みに縛られることなく自由にもの作りができるブランドになっていきたい。私はファッションもインテリアや料理のようにライフスタイルの一部だと思っています。私のブランドではレースやシルクなど贅沢な素材も取り入れていますが、そんな特別感のあるものを、日常に取り入れて欲しい。今日は気分がいいからシルクを着ようかな、みたいに。そんな日常に寄り添った特別な服が作れたらいいですね。
(ライター:川上朋子)
TOKYO解放区 “知る”
TOKYO解放区によるニューカマーのご紹介の企画として、「TOKYO解放区 “知る”」を開催いたします。「知る」ことにより、おぼろげなものが実態を持つ。毎日すごくたくさんのことを考えながら生活している人でさえ、お買い物という行為になると、一気にたのしい!かわいい!と直感的に進めていきがちな中、いつもよりも、少しだけ、商品やデザイナー、クリエイションに対する姿勢などいろいろなことを『知って』買う。そういうお買い物をしていただくのも素敵な体験になるのではないかと思っております。これからのTOKYOのファッションシーンを彩る4ブランドを中心にコラボレーション商品等も多数ご用意しておりますので、ぜひご来店くださいませ。 (TOKYO解放区 バイヤー ちば)
お取り扱いブランド:〈koll(コール)〉、〈RURI.W(ルリ)〉、〈SREU(スリュー)〉、〈BELPER(ベルパー)〉、〈nana kamio(ナナカミオ)〉、〈gui flower(グイフラワー)〉、〈lumgo,se(ルミゴーシェ)〉、〈Maya Numata Graphic(マヤヌマタグラフィック)〉
会期:2月26日(水) ~ 3月10日(火)
場所:本館2階=TOKYOクローゼット RestyleTOKYO内
TOKYO解放区「知る」会期中には、 三越伊勢丹アプリをダウンロードしていただいた先着500名のお客さまに、「TOKYO解放区2020年ロゴ入り」の〈Maya Numata Graphic(マヤヌマタグラフィック)〉によるステッカーをプレゼントいたします。
※なくなり次第終了となります。
TOKYO解放区デザイナーをもっと“知る”インタビュー
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