文字は感情や物語を静かに写し届けるもの。
さらに加山幹子氏の書は、線の一つひとつに想いがのって、見る人の想像を広げてくれます。
今回の個展「不立文字」では、言葉では伝えきれないものを、書と香り、そして空間に展示されたオブジェで表現します。
日常の中の静かな体験をお楽しみください。
加山幹子 interview
Q:moor gallery ) 書の魅力はどんなところにありますか?
A:加山幹子氏 ) 文字の成り立ちやデザインの過程を想像するのが面白いです。
たとえば「魯か(愚か)」という文字の由来一つとっても、魚が口をパクパクする様子から生まれたと言われています。その背後にある人間らしさや、後世に伝えたいという思いに惹かれます。当時どうしても伝えたかった魯かな出来事に興味がわいたりするのです(笑)。
そう言った一文字に込められた物語や感情を想像すると、文字を書きながら描くという感覚になり、「書く」と「描く」の行き来ができるのが書の魅力だと思います。
Q:moor gallery ) 書で表現することになったきっかけは?
A:加山幹子氏 ) 中学時代に絵本作家を目指していたことがあります。絵本は絵と文字が共存していて、どちらもすべてを語らない。その分、見る側の想像が広がるところが魅力でした。
書は文字を絶対的に書くものですが、線に意味や感情を乗せられる。
もともと文字は象形文字、いわゆる抽象画とも言えますし絵本をかく(書く・描く)感覚と自然に重なったのだと思います。
また、大人になって文字を褒められた経験も影響しています。「人を殺せそうな文字だね」と言われたこともあり(笑)、ただ綺麗だねと褒められなかったことも、自分の表現ができていると感じました。
Q:moor gallery ) 書くときの気持ちは?
A:加山幹子氏 ) 手紙を書くとき、きれいに書こうという技法云々よりも、感謝や想いを優先するものだと思っています。そういった手紙を書くような感覚を作品制作の際にも大事にしたいと思っています。文字が持つ意味を超えて伝わる瞬間を大切にしています。
Q:moor gallery ) 技法について教えてください。
A:加山幹子氏 ) 和紙に銀箔を貼ったものに腐食剤で文字を書いています。金属の化学反応(硫化)で文字が黒く浮かび上がってくる手法です。銀箔のヒビやカケ、腐食の風合い、など自分で描けない線やコントロールできないところに魅力を感じています。ただ、新しい素材を使えば使うほど「紙に墨」の組み合わせの相性の良さを痛感し、最近では再び紙と墨のシンプルな素材に戻りつつあります。
Q:moor gallery ) 今回の個展のテーマ「不立文字」について教えてください。
A:加山幹子氏 ) 「言葉や文字では表現しきれないもの」がテーマです。言葉では追いつかない現実に直面し、説明すればするほど軽くなってしまう感覚を覚えた経験から、「不立文字」という言葉がしっくりきました。文字や言葉を信じてはいますが、頼りきらないという気持ちです。文字や言葉には、ポジティブな面もネガティブな面もあると感じています。
Q:moor gallery ) 好きな香りについて教えてください。
A:加山幹子氏 ) 特に白檀(ビャクダン)の香りが好きです。坐禅の際に嗅ぐと心がすっと落ち着き、ゆっくりとスイッチが入る感覚があります。実は毎週、京都のお寺で朝6時半から坐禅をしていて、片道40分自転車で通うのが習慣です。道中の景色や空気を感じながら向かう時間が、文字と向き合う静かな時間になっています。書と香りは長い歴史の中でともに日本に伝わってきており、文字で表せない部分を香りで補う感覚があります。個展でも、作品と香りが自然に融合する空間を目指しています。
Q:moor gallery ) 書を通して伝えたいことは?
A:加山幹子氏 ) 長い歴史の中でデザインされてシンプルに仕上がった「文字」というものはとても優秀で面白いです。ただ、そのデザインや整理の過程で削ぎ落とされてしまったであろう感情や物語の情報を少しだけ拾い上げて書き、描きたいと思っています。
加山幹子 Kayama Mikiko Profile
書家
1987年鹿児島県生まれ。千葉県育ち。昭和女子大学生活環境学科プロダクトデザインコース卒業。
建築金物メーカーにて3年、株式会社SIMPLICITY/HIGASHIYAにて7年勤務したのち2018年京都へ移住。2019年より書家として活動を開始。
<加山幹子 / Mikiko Kayama> 不立文字
2月25日(水)~3月24日(火)
イセタンサローネ(六本木) 1階 アートウォール
(東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン・ガレリア1階)
※作品には限りがございます。
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